デンマーク留学記 ~26日目、デンマークにおける子育てと女性の就業状況~

昨日、妻とともに職場である研究所に行ったとき、受け入れをしてくださっている准教授の先生と妻と3人で昼食をとりました。

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↑昼食の写真。手前左が伝統的なデニッシュ。手前右がデンマークの伝統料理のマッシュポテト

 

会話の中で妻は、デンマークの女性が出産や育児をものともせず、退職することなく働けることに興味を持ったらしく、准教授の先生とデンマークの制度のことで盛り上がりました。実際に、こちらの研究機関に所属する研究員や技術員の8割が女性です。お世話になっているラボの教授も准教授も女性です。その准教授は、デンマークで女性が仕事を辞めずに継続できる理由として、主に5つの事柄が考えられると話をしてくれました。

 

・夫の援助

家事にはじまり、家のことは全て夫婦でシェアすること。この認識が国全体(社会全体)に広がっていることが何よりも重要だと言っていました。夫が半分を請け負ってくれるから、妻も仕事に力を入れられるそうです。

 

キンダーガーデンが充実

1歳から入ることのできるキンダーガーデン(幼稚園のようなもの)が充実しており、日本のように待機児童等はいないそうで、安心して育児と仕事を両立できると言っていました。

 

・産休・育休は子どもが1歳になるまで確実に確保

子どもがキンダーガーデンに入ることのできる最小年齢の1歳までは、確実に産休・育休を取得できるように政府が保護してくれるそうです。休んでいい、というより「休まなきゃダメ」だそうです。言い方を変えれば、子どもを生んだら1年は子どものために専念すること、ということです。その代わりに、1年過ぎたら、子どもが一人前になるまで国側が保証すると。考えてみたら、この国の人々は、自分の子どもでなくとも、子どもたちの健全な発育を第一に考え、暖かく見守っている人が多い気がします。子は国の次世代を担う存在であるからこそ、親2人だけに子育ての責任を負わせるのではなく、社会全体で育むべきという意識が強いようです。

 

・企業側の理解

個人的に一番重要だと思った点がこれです。いくらキンダーガーデンに1歳から入れるとしても、午後の4時には閉まってしまうそうです。つまり、それまでに親は子を迎えにいかなければなりません。また、小学校で行事があれば、親は子どもの送迎をしなければならないそうです。こうしたケースの場合、子どもの送り迎えに合わせて就業時刻を自由に決めてよいと言っていました。企業側が子育てにおける実情を理解しているからこそ、できることでしょう。実際に、ニールさんも、ノアさんも、トリーネさんも「子どもを迎えにいかないといけないから!」と言って、毎日午後3時までには絶対に帰ります。前述したような社会全体で子育てに責任を持つべきという風潮が、企業側にもしっかりと浸透している様子が伺えます。当然、産休・育休についても、出産や子育てを理由に会社を辞めさせられるようなことは絶対にないとのこと。企業側の理解があるから、休んだ後の復帰もスムーズだと言っていました。

 

・大学まで教育費は無料

社会全体で子どもを育てるべきという風潮の最たるものがこれでしょうか。デンマークでは、キンダーガーデンから大学までの入学金や授業料等、すべてが無料です。教育費(貯金)のことを考えて、出産のタイミングなどを考える必要はあまりないようです。その分、極めて高い税金を支払う必要はございますが、一部の富豪を除いて、大半の人がこの制度に賛成しているそうです。反面、教育機関の多様性が減ってしまう気もしますが、各教育機関が持つべき特色は金銭の多寡によって違いを持たせるべきではないのかもしれません。

 

 

女性が継続して働きやすい社会を形成する上で一番ネックな点は、やはり妊娠と子育てだというのがよくわかります。その2点を支えるための制度が充実していること、そしてその制度をきちんと機能させるための社会基盤と社会全体の共通意識が整っていることこそ、デンマークで女性が働きやすい理由なのでしょう。日本でも、政府・企業の努力により子育てを支援するための環境が、昔よりよくなったと思います(もちろん、まだまだ改善すべき点はあると思いますが)。デンマークと日本の最も大きな差異は、社会を構成する一人ひとりが他者の子育てへの理解を示し、親だけに責任を負わせないという意識が弱い点だと思います。一番変えることが難しく、時間のかかることですが、日本独自の風土に合わせて、社会全体で子育てを支援するという意識が浸透していけばいいなと思います。日本の出生率、女性の就業状況(社会進出)を改善するヒントがここにあるような気がしました。